Lesson3-3 卵について

卵はお菓子作りには欠かせない素材の一つです。
お菓子の構造だけではなく、風味や舌触り、歯ごたえ、そして見た目などを形成するうえで重要な役割を果たします。
お菓子作りを失敗しないためにも、こうした卵の特性は理解しておきましょう。

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卵の構造

■卵白■

卵の約60%は卵白です。
新しい卵は、この卵白の部分がぷっくりと膨らんで盛り上がっています。

さらに卵白の約90%は水分で構成されています。
残り10%の固形成分のうち、90%以上はたんぱく質になります。
このたんぱく質がお菓子の構造を作るうえで重要な役割を果たしてくれます。

卵白の特性はいくつかありますが、アイシングを作る際に役立っているのは「気泡性」と「空気変性」です。

水には「表面張力」という力があるので、水だけではどんなに撹拌しても泡立つことはありません。
しかし、ここに表面張力を弱めるたんぱく質を加えると、空気をたくさん抱え込んでふわふわの泡が立ちます
こうした性質を「気泡性」といい、卵でこの性質を持つたんぱく質を含む部分が卵白です。

また、石鹸水を泡立てるとまもなくその泡は消えてしまいますが、卵白に含まれるたんぱく質はできた泡を維持するための特性も併せ持っています
これが「空気変性」という特性です。

この2つの性質のおかげで、卵白はふわふわに泡立ち、メレンゲができあがります。

■卵黄■

カスタードクリームなどクリームを作る際には、卵黄を使うことがあります。
卵黄は、卵白とは異なり固形分は約50%、そのうちの2/3を脂質、1/3をたんぱく質が占めます。

ところで、仲が悪いことの例として「水と油」という言葉があるほど、本来水分と油は交じり合うことができません。
ですがこの水と油を上手に仲介して、みごとに協調関係を成り立たせることができる脂質がいます。
この立役者を「レシチン」といい、レシチンが行う作用を「乳化」といいます。
この乳化作用の代表例として、お酢と卵で作られるマヨネーズがとても有名です。

卵黄には上記の作用に必要となる「レシチン」が含まれているので、料理やお菓子作りでは欠かせない存在となります。クッキーやケーキの生地には、小麦粉にバターと牛乳、卵、砂糖を混ぜるのが一般的ですが、こうした生地が分離されずうまくまとまるのは、卵黄に含まれるレシチンのおかげなのです。

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卵の鮮度

卵は常温でも保存でき、冷蔵庫に入れておけば風味は多少落ちますがかなり日持ちします。
価格が大きく変動しない卵は「物価の優等生」といわれることもありますが、料理やお菓子作りに欠かせない点や、栄養価が高いこと、そして保存が容易である点から見れば、さらに「食品の優等生」とも言えるかもしれません。

ところで、「ぷりっぷりのたまご」という表現がありますが、その表現の通り新鮮な卵は弾力性があり、生でもおいしく食べることができます。
しかし、卵は古くなるにつれてだんだんと弾力性がなくなり、べちゃっとした水っぽい状態になります。
これを「卵白の水様化」といい、鮮度の目安として用いられています。
これをもう少し科学的に見てみましょう。

 

新鮮なぷりぷり卵白と水様化

産みたての卵は、その卵白の中に約55㎎の二酸化炭素を含んでいます。
ですから産みたての卵の卵白は酸性になります。

しかし、この二酸化炭素は日がたつごとに殻の部分にあいている微細な穴から少しずつ漏れ出していきます。
すると卵の内部の二酸化炭素が減少し、卵はだんだんアルカリ性へと変化していきます。
新鮮な卵にぷりっとしたコシを与えるのは、卵白に含まれているたんぱく質の性質によるものなのですが、このたんぱく質はアルカリ性になると分解されてしまうという性質を持っています。

卵を長期間保存しておくと、次第に卵の中の二酸化炭素が減少してアルカリ性に変化し、ぷりぷり状態を維持するためのたんぱく質が失われて、べちゃっとした状態、つまり「水様化」がおきてしまうのです。

この水様化は、温度が低いほど緩やかに進行する傾向があります。
つまりたまごは冷蔵庫で保管しておくほうが、鮮度が長持ちするのはこの現象が大きく関わっています。

 

■Lesson3-3 まとめ■
・いくつかある卵白の特性のなかで、アイシングを作る際に役立っているのは「気泡性」と「空気変性」。
・気泡性・・・水分の表面張力を弱めるたんぱく質の働きにより、空気をたくさん抱え込んでふわふわの泡が立つ性質。
・空気変性・・・できた泡を維持するための性質。
・水と油が混ざり合うことを仲介する物質に「レシチン」がある。このレシチンが行う作用を「乳化」といい、お菓子作りには卵黄のレシチンが重要な役割を果たしている。
・卵の鮮度が落ちて卵白が水っぽくなることを「卵白の水様化」という。
・「卵白の水様化」は、時間の経過とともに卵が酸性からアルカリ性に変化することにより、たんぱく質が分解されて起こる。